犬 帰路 犬 かなしみのその色!
犬を連れて歩くひと、家まではすぐ近く
わたしの家まであと5分もかからないその公園
押せば凹む粘土とは違うとわかっているのに、わたしは彼の肌を濡れた指で何度も撫でた
焼き上がった陶器の様なかれのくちびるがすぐそばにあったことを思いだして、わたしはひとり苦しくなる
そのくるしみは、退屈な痛みとは違う
白い犬を3匹連れて歩くひと
夕方はもうすぐ闇になり、薄く靄のかかるみどり色の家路は、今まで見た幾人もの涙を流す女を思い出させた
切ない女のかなしみは、すべてこのようなごく稀に出現するさいはてのかなしい国に、ひとつ残らず集められているように思う
悲しい話をするたびに、誰かの髪が羽毛のようにやわらかに揺れ、わたしが泣くたび、突然の雨が降って塩辛いのは海への郷愁になった
白い犬を3匹連れたままポールの間を通るひと
犬たちを繋いだリードを操り人形のそれのように持ち、濁りなく笑いながら道を急ぐ
それは五月のスコールにフードを被った何年も前の彼のように、悲しくて綺麗。悲しくて綺麗。
わたしにはこの悲しみの国に、彼らがいとしい
わたしの家までこの道はあと2分もかからない
犬たちがわたしの前から先に先にと遠ざかる