FUMI

日記/葉書 など

犬 帰路 犬 かなしみのその色!

犬を連れて歩くひと、家まではすぐ近く わたしの家まであと5分もかからないその公園 押せば凹む粘土とは違うとわかっているのに、わたしは彼の肌を濡れた指で何度も撫でた 焼き上がった陶器の様なかれのくちびるがすぐそばにあったことを思いだして、わたし…

ウー

わたしは白いお姉さんを何人か知っていた。 おねえさん、と呼びたくなるような女のひとたち。 年はみんな高校生くらいだった。 彼女たちのくちびるはいつも赤に近い腫れたぴんく色で、彼女たちの腹はいつもすらっとして細く、白く、彼女たちの二の腕はいつも…

住んでいた家の話

みんな知らないと思うけど、わたしは和歌山の出身で、幼稚園年長のときに引っ越した古くてかわいいおうちに、猫と、でかい金魚と、両親と姉と、長いこと暮らしていた。 知り合いの設計士の方と大工さんが丁寧に張り替えた床はつやつやしていて、若くて綺麗だ…

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おぼえていますか。昔の晴れた春の初め、電車の窓から笑う光たちの群れがあまりにもおれんじで美しかったこと。おぼえていますか。 あの大嫌いなベランダを登り息を吐きながら星を探して泣いたこと。おぼえていますか。 わたしはあなたの記憶です おぼえてい…

剥はく

私を温める毛糸は雷光のように強く痛く光り、肌の匂いをこもらせて眠りについた。今日が終わって不幸だけが残っても、肩の体温はその背丈と伴ってあゆむ 海の太陽は赤くて、黄色くて白くていい匂いがした。もし太陽が萎んで両手に包めるようになって、わたし…

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数字で咥えた涙など 塩辛くてぬるいそれは海に似ていました 綺麗で、納得がいかなかった その瞬間終わってしまったものを目で追っていても、わたしは臆病な猫背にもならずに強く息をできました。本当は殺していたのかもしれません。本当は子猫のように美しく…

(12:24)

わたしはつむぐ手を見ていた 蛍光灯の悪魔的な光り方や、彼女のしずかできれいな白眼にみとれていた。机に伝わる振動、意識を軽く浮遊させて色彩を認識した時、わたしはそのあざやかさに、そのここちよさに、感動に涙すらした。 万緑の中に吾子の歯生え初む…

回想・森

みどりいろの坂・毎日通っていたそれの、おそろしい小さな森が、気がつくと刈られてがらんとしていた。そこには大きな動物も、死体も、あの日横たわって見え隠れしていた壊れた古い自転車ですらも、姿がなかった。 森がまだ生きていたころ、裏側のほうからは…

絶対的生活についての過去と想像

あたらしい紙マスクのしたで、わたしは美しい生活へ切実な妄想をはじめる ときたま舌に乗せる甘いものや友人の体温 昨晩整理整頓したばかりの棚や、きちんと雑巾をかけた床 わたしはいつかそういう家に住む 下より2020-05-15の手記 “もしも私の身体がホーム…